SideBooksクラウド本棚ユーザーレポート Vol.2 熊本県熊本市役所編

熊本地震後に役立ったタブレットはその後の通常業務に生かされ、さらに今後の備えへと向かう

災害対策本部会議を支えた「SideBooksクラウド本棚」
タブレット導入による業務の変化

熊本市役所 政策局 総合政策部 政策企画課 主査 田代政樹氏

熊本市役所(熊本県熊本市中央区手取本町1-1)では、平成28年に発生した「平成28年熊本地震」をきっかけに、タブレット端末と「SideBooksクラウド本棚」を導入。当時、災害対策本部会議のとりまとめ役であった田代氏に、災害対策本部での活用の様子、災害対策本部解散後の通常業務での活用の様子について、話しを伺った。

災害対策本部会議には膨大な紙の資料が必要だった

平成28年熊本地震発生

平成28年(2016年)4月14日と16日の2回にわたって最大震度7の地震が発生した「平成28年熊本地震」。熊本市でも4月14日には最大で震度6弱、16日には最大で震度6強の揺れがあり、甚大な被害がありました。熊本城の天守閣や「奇跡の一本石垣」と呼ばれるようになった戌亥櫓(いぬいやぐら)の映像や写真が記憶に残っている方も多いことでしょう。

業務の時間のほとんどを印刷に費やしていた

1回目の地震の直後に、熊本市の災害対策本部が設置されました。災害対策本部会議は、発災直後は1日に3〜5回、9月20日までに計63回開催されました。

災害対策本部会議で取り上げる議題は多く、膨大な紙資料量がありました。会議のとりまとめをしていた熊本市役所 政策局 総合政策部 政策企画課 主査の田代政樹氏は、発災直後から2か月間ほどの様子をこう振り返ります。

「20以上の局から提出される資料をとりまとめて災害対策本部会議の資料を作っていました。会議1回あたりの資料は平均40〜50ページで、用意する部数は50部から60部、多いときには70部程度でした。関係者が追加されたり、途中から会議をメディアに公開したりして、人数が増えたためです。各局からいったん提出された資料の差し替えや追加もあります。会議が1日に数回開催されることもあり、業務の時間のほとんどを印刷に費やしていたような記憶があります」

第1〜26回の会議資料。これが1人分にあたる

タブレット導入により会議をペーパーレス化

印刷業務の負担を軽減

この状況を変えたのがタブレットでした。発災から2か月後に、数社の民間企業の支援により100台のタブレットが導入されたのです。このタブレットは、SideBooksクラウド本棚(以下、SideBooks)をすぐに使えるように設定済みでした。

災害対策本部会議のとりまとめ役である田代氏にはPDFなどのデータが各局から送られ、田代氏はそれをまとめてSideBooksにアップロードします。これだけで、会議の出席者は自身の手元のタブレットで資料を見ることができます。「資料を印刷する必要がなくなって、大幅に負担が軽減されました。資料の差し替えや追加にもすぐに対応できます。資料を紙からタブレットに変えても、会議の進行に支障はありませんでした。導入時点ではタブレットの操作に慣れていない出席者もいましたが、操作研修やマニュアルの提供などは特にしませんでした。最初の数回だけ私たちがサポートしながら会議を進行することで、その後はスムーズに使っていただけました」(田代氏)

タブレットを利用した災害対策本部会議の様子

庁議、資料共有、報告など日常的にタブレットを活用

組織に根付いたペーパーレス

地震発生から5か月後の9月に災害対策本部が解散し、平時の業務に戻っていきましたが、その後もタブレットとSideBooksは引き続き使われています。

現在の主な用途としては、各局からの資料を共有して庁議で利用しているほか、議会対応のための答弁資料の準備と共有や、市長への報告にも使われています。大西一史市長が「SideBooksに入っていない資料は見ない」と言うほど徹底してICT化、ペーパーレス化を推進していることもあり、これらの使い方は庁内に急速に浸透しました。「今はタブレットとSideBooksがないと仕事がうまく回らない」と田代氏は言います。

蓄積される資料の活用

災害対策本部、そしてその後の通常業務と、タブレットが導入されてから平成28年度(2016年度)の年度末までのおよそ10か月間だけでも、SideBooksのサーバーに保管された文書は、5,000ファイル、6万ページにのぼります。震災対応の多くの文書、そして日常のさまざまな業務にまつわる文書が一気にペーパーレス化されたことが、この量からもうかがえます。

すでに議会対応資料もSideBooksの本棚にすべて揃っています。現在、熊本市議会では本会議・委員会への電子機器の持ち込みの是非は議論中ですが、持ち込みが許可されればすぐに活用できます。例えば予定外の質問などを受けた場合にも、資料を参照してその場で答えられることが増えると予想されます。

庁議の様子。各自がタブレットで資料を見ながら議事が進行する

時間の有効活用や働き方改革などメリットは大きい

外出先から資料を閲覧

幹部や管理職は、タブレットを持ち歩くことで庁舎を離れても資料を確認できます。もちろん過去の資料を参照するだけではありません。庁舎にいる職員が作ったばかりの資料も、SideBooksのサーバーに転送すれば出先ですぐにチェックできます。災害対策本部が置かれていた間は田代氏が各局からの資料をとりまとめてSideBooksのサーバーに転送していましたが、通常業務に戻ってからはそれぞれの部課にサーバー転送のためのアクセス権限を付与しています。そのため、部課に応じた運用ができ、特定の管理者に負担がかかることもありません。

利用しているタブレットはすべてLTEモデルです。このため庁舎内はもちろんのこと、屋外やWi-Fi設備のない施設でも利用できるため、タブレットの機動性を活かせます。田代氏自身も外部の会議や出張などにタブレットを持っていくとのことで、「かさばって重い紙の資料を持ち運ぶ必要がなくなったので助かります。それを見たほかの方から、うらやましがられることもありますね」と笑います。

印刷時間と人件費を削減

熊本地震後の会議資料を紙で用意していた2か月間、多いときにはコピー機を何台も同時に稼働させるほどだったと田代氏は言います。それが、SideBooksの導入により、資料の準備にかかる時間も人手も大幅に削減されました。これは震災時の膨大な資料を整理する上で、劇的な効果をあげました。この利点は、災害対策本部が解散した後の通常業務においても、引き続き活用されています。紙の資料には、紙と印刷の費用のほか、環境への配慮、保管場所、後からの閲覧や検索の手間、紛失や漏洩など、多くの問題があります。そしてもちろん、貴重な時間と人件費が紙の資料の準備に費やされているということでもあります。

タブレットを活用したペーパーレス化について、田代氏は「タブレット端末や携帯電話回線のコストと、タブレット導入によって節約できる紙と印刷のコスト、この両者だけを比較すると、もしかしたらペイできないかもしれません。しかし印刷にかかる時間分の人件費は、相当大きいものです。もちろんその分の時間を有効に使えますし、資料を見る側はいつでもどこにいても見ることができます。時間の有効活用や働き方改革という面でも、効果は大きいと考えています」と語ります。

タブレットのSideBooksからさまざまな資料を閲覧できる

日常業務の中で非常時への備えを

平時にやっていないことは、非常時にはできない

「平時にやっていないことは、非常時にはできない」。田代氏は震災の経験を踏まえて、そう語ります。たとえば市役所には災害用の公用携帯電話が用意されていましたが、熊本地震の際には職員がその携帯の電話番号を知らないために活用できなかったそうです。また、震災の混乱の中、職員間で連絡を取りやすかった手段は、各自の私物のスマートフォンで利用しているLINEだったといいます。「常に持ち歩き、使い慣れているものが、最も役に立つと実感しました」(田代氏)

熊本市役所の取り組み

そこで日常業務を改善しつつ、万一の事態への備えともなる取り組みを始めています。日頃から使っておくことが重要であるという考えによるものです。実際に始めている取り組みを、いくつか紹介します。

テレビ会議

震災時、区長は各区避難所対応の責任者であったことから、会議のたびに本庁へ移動することが、業務上の大きな支障となっていました。そこで活用されたのがテレビ会議でした。熊本市では災害時のために震災以前からテレビ会議の設備自体は整えていました。しかしこのとき初めて利用したため、各拠点で設定に時間がかかったり、会議中に音声や映像が途切れたり、不具合がたびたび生じていたそうです。この反省を踏まえ、熊本市では現在、日常業務にも積極的にテレビ会議を導入しはじめています。遠隔地から参加できることで、仕事の効率化を図ると同時に、災害時にすぐテレビ会議を開催するための訓練を兼ねる仕組みを構築しています。

大型のタッチディスプレイ

震災時には庁舎内の別の階との情報共有が難しいという問題が発生しました。そこで離れた場所との情報共有に便利な、大型のタッチディスプレイを導入しました。情報をディスプレイに映し、そのディスプレイ上で書き込みができます。するとその書き込みも離れた場所にいる人と共有できます。まずは市役所内の別フロアとの情報共有が検討されています。

SNSなどの研究と活用

震災時に職員間でLINEが活用されたこともあり、熊本市では2017年4月にはLINE株式会社(現・LINEヤフー株式会社)と連携協定を締結し、LINEを活用した地域防災や地域振興について研究を始めています。LINEをはじめとするSNSを活用した安否確認訓練や避難所開設の訓練なども実施しています。

熊本市役所は、大地震から2か月後という混乱の中で会議資料のペーパーレス化に舵を切りました。資料準備の負担をなくし、そこから通常業務のペーパーレス化、さらにテレビ会議システムの導入など大きな前進を遂げています。資料のペーパーレス化と共有をはじめとするICT活用に今から取り組み、常に使って、使い慣れた状態にしておくこと。これが、日頃の仕事のあり方や働き方を大きく改革すると同時に、万一の事態への大切な備えにもなることを、熊本市役所の成果から学ぶことができます。

本記事は、平成30年(2018年)12月の取材に基づくものです